絆
「こうして生かしていただけてるんだもの」
「四肢も五指も残していただけたんだもの」
呪詛のように、自身に叩きつける台詞。
だから私は幸せ、だからまだ幸せ、だからまだ頑張れる、泣くな喚くな怒るな。
私は恵まれている。
生んでいただいて、養っていただいて。
まだ恨むなんてクズなことしちゃだめだ。
感謝しないと。感謝が全てを救うんだ。感謝って素晴らしいじゃないか。
感謝しろよ。
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父母の恫喝。
感謝、感謝しなきゃ。
痛くないです。
感謝しています。
痛くないです。
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「目に見える障害があるなんて羨ましい」
「多重人格なんて派手な障害があって羨ましい」
不透明な苦痛に呻く人々がそう唇を歪ませる。
私の苦しみは目に見えないの。あなたみたいに解離できたわけでもないの。理解されないの。大手を振って病人ヅラできるあなたなんて幸せだわ。
そう、難病も怪我も、私が自分で作ったんだ。
私は、似非といわれる自称多重人格のひとびとを嫌ったけれど、彼女たちの叫びがすこし理解できる。彼女らの辛さに比例しない「軽い」病名が、彼女らの口を塞ぐのだ。
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「友人」たちの苦痛。
疎外。
痛くないです。
私は、理解されているのだから。
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婦人科の内診が難しい。意識が遠のき、血を流す。
未成熟な身体が、軋んで血を流す。
大人になりそびれた、子供のままの。
大人になりたくない、と願ったかつての被害者を多く知る。
彼女/彼は、そう願うのに反して大人になる身体を、今も、悲鳴をあげて拒絶し続けている。
私も同様に、大人になることを拒んだ。ひずんだ脳に支配され、身体が言うことを聞いてくれたんだ。少女のままの身体が、体重の増加をすら拒絶してくれる。
細くて小さくて「血を流す」。他人格が「たかくうれる」と嘲笑う。
生きづらい?バカを言うなよ。
願いと現実との乖離を知らないくせに。精神の痛みを体現できたくせに。
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どこにもいけない。
どこにも。
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私のために泣いてくれた友人が、たったひとりいた。
繊細な感性と友情とを持って、私の痛みに泣いてくれた。
ありがとう、きっともう会えない友に、幸せがあるように。
絆。
私が愛したひとが、たったひとりいた。
大きな痛みを背負い、ひとり立って、清らかに微笑んでいた。
そんなひとと究極的に添えるなんて、思ってなかった。
歪んだ脳と、強く壊さなければ愛せない体。
ありがとう。きっともうそばにいられない。
幸せがあるように。
あなたが幸せになれますように。
絆。
私はどこにもいけない。
だから、どこにもいない。